· 

#014 【雑談】「縮尺のない地図」公開


 こんばんは、晴凪です。

 

 今回のブログでは、PDFデータが公開されて間もない広報誌『妄想鉄路 第4号』に寄稿した、自作「縮尺のない地図」について取り上げます。

 

 毎号のごとく字数制限に悩んでいるのは事実ですが、この話に関しては「連載」の予定だった内容を広報誌版の「読切」にしたものになっています。連載作でいう、1話目にあたる部分と中盤の場面を抜き出した形になります。もしも、全部の内容を書いていたとしたら、後半の「立花が瑞急沿線の旅を通して、沢山の存在と出会い、人間としても棋士としても成長していく」部分が主題になっていたと思います。

 

 蒲生さんの「緑の快速で、逢いましょう」で地図に関する内容、日急さんの「大きすぎる代償」で趣味に関する内容が出ている関係もあり、「自作と同じ話題や展開を扱っている作品があれば、晴凪の原稿を後ろに持ってくる(→他参加者の作品を先に置く)」という方針もあるため、今回は後半に配置しています。こちらは話の展開面にはなりますが、第2号のMidoriさん→晴凪の流れと同じ形です。

 小声ですが、「緑の快速」は奥武線版の「深夜急行の夜」という雰囲気も感じました。

 

 

 さて、自作に話は戻りますが、作品の舞台としては姫路・加古川(尾上)・尼崎(大庄)・明石と多くの地域が登場しています。将棋という難しい題材を扱う以上、史実をある程度加味することで説明しやすくするため、実際に将棋界に縁のある地域を選んでいます。姫路は例の人間将棋や、個人後書きでも触れた「電王戦」。加古川は縁のある棋士が多く、若手棋戦「加古川青流戦」の開催や、タイトル戦の舞台として使用された鶴林寺の存在。鉄道の廃線跡が多くある、という意味でも今作には欠かせない場所です。尼崎は、晴凪が長く推している豊島九段の在住地。ご存じの藤井竜王、渡辺名人、永瀬王座と豊島さんの4人は、現在の将棋界における「4強」を形成しています。そして、明石も縁のある棋士が多く、将棋の普及活動も盛んです。ちなみにですが、人間将棋の場面における「序盤、中盤、終盤、隙が無い」は豊島さんの強さを表現した、実在のネタです。(佐藤紳哉七段がNHK杯の豊島戦の対局前に行ったインタビューの動画を参照)

 

 冒頭場面の人間将棋に登場する2人(立花、兄弟子の黒田)は、実在した武将である立花宗茂と黒田長政から名付けています。検索すると、弓と鉄砲の話が出てくるかもしれません。現実では、女流棋士の里見さんが棋士への「編入試験」を受験していますが、主人公の立花は、いわゆる「三段リーグ」を勝ち抜いて四段になった棋士であり、唯一の女性「棋士」です(女性だが「女流棋士」ではない)。作中では特に言及していませんが、現実の棋士制度は結構難解なので、一度調べてくださいね。

 

 名前といえば、中終盤の場面に登場する櫨谷二冠の名前は「龍一」で、将棋の駒の一つである「竜王」が由来です。しかし、立花の下の名前は作中には一切登場しません。仮に駒の名前が入るとするならば……ですが、手掛かりは入れています。それは、人間将棋の「暗黙のルール」に触れた場面。そう、香車なのです。櫨谷が駒の役割について話す場面では「人間将棋ではなかなか動かなかった香車はロケットのような脅威がある」と評されています。伸び悩む立花に対して、櫨谷なりの表現で立花の「伸びしろ」を表現して彼女の成長を恐れています。香車は前に向かって突き進む駒ですが、これは立花の性格面にも表れています。幼い頃に将棋と出会った後、彼女は凄まじい勢いで前へ進み続けます。ある意味、まっすぐで素直な性格なのかもしれません。もちろん、「言ったことのない場所に行くのが好き」という好奇心の強さも、彼女の将棋に与えた影響は大きいのでしょう。瑞急ホームページに本作を掲載した際には前・後編に分割していますが、後半冒頭の五行(櫨谷を立花が追う場面)は、当時の棋力差の暗示でもあります。

 

 本作の最終場面の時点で新たにタイトルを獲得して三冠王になった櫨谷の唯一の趣味は、観劇。作中でも言及されているように、梅田や宝塚への観劇に行きやすい立地である大庄を住処に選んでいます。

 ご存じのように、作者の晴凪は観劇を趣味の一つとしていますが、先日友人に興味深い指摘をされたことをご紹介。宝塚を本拠地とする歌劇団は、設立順にの各組と、特定の組に属さない専科から成り立っています。それぞれの組にイメージカラーのようなものがあり、順に赤・黄・緑・青・紫となっています。対して、瑞急は5路線(瑞急本線宝塚線西神線高砂線播磨線)と妹川モノレールがあり、5組と専科からなる宝塚と一致します。ここまでは、晴凪も意識して作成していたのですが、「この5路線を距離が長い順に並べると、宝塚の組カラーと順番が一致する」と耳にして、思わず驚きました。私は星組推しなので、ちょうど宝塚線ですね。

 

 おっと、話が逸れましたね。当初、櫨谷はスマホを持っていないという設定で検討していましたが、コンピュータを将棋の研究で多く用いていることから、ガラケではなくスマホを持たせました。本来ならば、全国各地で戦うタイトル戦のご当地土産を立花とのVSとの際に毎月くれる、という描写も入れたかったのですが、これも泣く泣く割愛です。

 

 スマホやパソコンを日常的に使用することが当たり前になった現在、紙媒体の地図を使用する機会は確実に少なくなっているでしょう。中学生の頃に、友人と校区内に架空の「自転車道」を作成し、その路線を校区の「防災マップ」のような地図に描いたりしていたときのことを思い出します。癖の強い構造のジャンクションやインターチェンジを、ノートの余白に描いていたことが懐かしいです。

 本作のスタート時点は、ある観光地を訪れた際に観た「観光用の地図看板」で、地元の方が作られたであろう愛嬌のあるものでした。一方で、地図としては縮尺が正しいものではなく、ある部分がカットされていたり、逆に強調されていたりもしました。後で知った「Not to Scale(NTS)」という言葉は「縮尺のない図面」に書かれているそうで、具体的には配管図や(電気の)配線図や系統図に使用されることが多いようです。この発想を地図や路線図に飛ばしたのが本作で、このブログの冒頭に書いた「立花が瑞急沿線の旅を通して、沢山の存在と出会い、人間としても棋士としても成長していく」主題に大きく関わってきます。最終場面の「移動した距離を忘れるくらいに、私の地図からは縮尺の概念が消えていった。」という一文は、私が今作で最も描きたかった部分でもあります。楽しかったら、時間が早く過ぎていく……みたいなことを旅や地図で表現するのなら、自分はこう書こう、といった次第です。

 

 あとは小ネタになりますが、観光特急「海日向」を匂わせるような「海」と「太陽」の描写、サイクルトレイン「C-route250」を想像させる「自転車」と「国道250号線」を入れています。今後の瑞急における観光を担う車両ですので、是非とも期待していただければと思います。

 姫路~赤穂はサイクルトレインの設定を反映させていますが、ダイヤや設備の面で姫路~明石の運行のメドが立っておらず、悩んでいる状況です。もし明石発が運行できるのであれば、淡路島~(瑞急フェリー)~明石~(サイクルトレイン)~姫路・赤穂のような、サイクリストが歓喜しそうなルートが誕生するのに、と思います。やはり国道250号線とも並行するルートですから、何としても実現させたいですね。

 

 今作で取り上げている加古川周辺に集まった廃線跡もそうですが、瑞急沿線には多くの観光名所がありますので、是非訪れてみてください。もちろん、最終場面における「浜の散歩道」「赤石の碑」「松江公園」もなかなかの名所です。ネットで調べて、旅行気分を味わうのも良いですね。

 縮尺のない地図の上で、素敵な旅をお楽しみください!